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◆日本人はアイディアを大切にする。
ジェームズ・アンドリュー、ハロルド・サーキン(重竹尚基、遠藤真美、小池仁訳)「BCG流 成長へのイノベーション戦略」、ダイヤモンド社(2007)4270002719
いわゆる日本的企業のいまだに多くのミドルマネジャーやシニアマネジャーは、建前はともかく、本音の部分ではプロジェクトマネジメントや、MBA流のマネジメントを否定している人が多い。
国民性だの、現場主義だのいろいろな理由が言われているが、今まで、どれもあまり納得のいく理由ではなかった。それについてこの本に書かれていることはかなり納得できた。
日本人はアイディアを大切にする。この本のテーマであるイノベーションのような分野だけではなく、日常業務の中でも常にアイディアを出し、改善をしようとする。創造性に富んでいる。
一方で、アイディアに頼りすぎる傾向がある。大したアイディアではないと思えば、アイディアが受け入れなければすぐにあきらめる。諦めて次のアイディアを探す。よく言えば潔さがある。国の政策などはこの典型かもしれない。逆に良いアイディアだと思えば、受け入れなれなくてもしつこく粘る。
◆ウォークマンを作った日本人は、なぜiPodが作れなかったか?
この発想の原点は、「よいものは売れる」とかいった発想があると思われる。「提供者が満足できないものを売るのは不道徳だ」という発想さえもあるし、これらが社会的価値観になっていると言ってもよいだろう。
実は、この本の中で、ひとつの問題提起がある。日本の会社はなぜ、iPodを作れなかったかという問題提起だ。アイディアもあった(ICオーディオを最初に世に出したのはソニーである)。開発する能力もあったし、実際にソニーなどいくつかのメーカはアップルより先行して開発していた。しかし、実際に、ICオーディオの「ドミナントモデル(普及モデル)」を作ったのはアップルだった。
この指摘はこの本で初めてされたというわけではない。いろいろな分析がされている。アップル社のコアコンピタンスである商品デザインやインタフェースデザインが日本の企業にはなかったという人もいる。ネットワークで音楽を提供するというビジネスモデルが日本の企業にはできなかったという人もいる。いずれもそういう一面はあったのだろう。
この本が指摘するのは、アイディアをお金に換えるまでのマネジメントの違いである。アイディア実現の戦略能力の違いだということもできる。ソニーがICオーディオで消費者に対してやってきたことは、アイディアを提案し、受け入れられなければ新しいアイディアを提案する。このパターンで成功したのが、ウォークマンだったのだろう。
◆良いアイディアが売れるのではなく、売れたものがよいアイディアだというパラダイムシフトがプロジェクトマネジメント成熟のカギ
日本の組織はこの部分のマネジメントを放棄している組織が多いように思う。商品であればアイディア勝負ということになるが、商品開発に限ったことではない。事業でも、プロジェクトでも、計画(アイディア)に対して、それを何とかしようと強く思わない。日本人は責任を取らないという。一方で責任感が強いという評価もある。
責任感は強いのだが、アイディアや計画がうまくいくかどうかは「風まかせ」なのだ。マネジメントをしてうまくいかなければ、マネジメントの責任ということになるが、風まかせであれば、ある意味で責任のとりようがない。
ここにどうしても抜けないプロダクトアウトの発想がある。そのアイディアがよいかどうかを決めるのは、発案者や開発者ではない。市場であり、顧客である。その意味で、アイディアを自身で評価するのは「不遜」ではないかと思う。価値がわからなければわかってもらうという謙虚な姿勢がないので、マネジメントがないのではなかろうか。
プロジェクトマネジメントはアイディアを実現するための手法である。
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