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◆プロジェクトをとりまく環境の変化
プロジェクトマネジャーの重要な資質の一つはリーダーシップである。プロジェクトマネジャーの個性による違い、組織の特性によって求められるもの違いによって、スタイルの違いはあれ、プロジェクトマネジャーはリーダーであることを求められる。
この前提になっているのは、プロジェクトの成功はプロジェクトマネジャーに依存することである。この前提は、現在も将来も正しいと思う。同時に、プロジェクトを取り巻く環境が変わっていることも理解しておく必要がある。
プロジェクトの成功がプロジェクトマネジャーに依存するという前提と書いたが、もっと正確に書くと、「リーダーとしての」プロジェクトマネジャーに依存している。もちろん、組織は「リーダーの育成」という責任を持つという前提の上での前提である。
◆ゴールを付与されないプロジェクト
プロジェクトを取り巻く環境が変わってきているというのはどういうことか。覚えていらっしゃる方もいるかもしれないが、以前、メルマガでプロジェクトマネジャーの自転車モデルというのを示したことがある。
自転車の後輪:知識、ハードスキル
自転車の前輪:ソフトスキル
自転車の運転者:コンピテンシー
というモデルである。このモデルは、自転車で目指すゴールは明確であることを前提にしている。ゴールまでの道がない場合もあれば、ある場合もある。しかし、ゴールは見えている。このような環境であれば、プロジェクトの成功はプロジェクトマネジャーという運転者にゆだねられている。
ところが今は、ゴールがはっきりしないことが少なくない。おぼろげにしか見えない、旗は見えるがそれがゴールかどうかはわからない、ゴールだと思ったところが蜃気楼のように変わってしまう。状況はいろいろだが、いずれにしても、ゴールに向かって進むだけではいくらコンピテンシーがあってもゴールにたどり着けない。ゴールをはっきりさせる必要がある。プロジェクトのゴールとは目的と目標である。
◆ゴールをはっきりさせるのは誰か
問題はだれがゴールをはっきりさせるかだ。
この問題はゴールが何によって決まるかで決まる。プロジェクトのゴールは組織の戦略によって変わる。ITプロジェクトだと顧客の要求が決めていると言いたい人もいると思うが、ITプロジェクトでもゴールを決めているのは戦略であって、顧客ではない。少なくとも、顧客はそう思っている。
だとすれば、ゴールを決めるのは、戦略を作る組織であるべきだ。つまり、プロジェクトの上位管理者だ。
以前、プロジェクトに明確なゴールが与えられていたのは、組織が決めていたからではない。何をすればよいかが組織全体のコモンセンスとして共有されていたのだ。商品の機能を高くすればよい、品質を高くすればよいといったコモンセンスだ。たとえば「品質がコストにもスケジュールにも優先する」ことがコモンセンスになっている。これだとゴールは極めて明確だ。そのプロジェクトで開発する商品やシステム自体がゴールになる。プロジェクトとしての顧客のいうことを聞いていればよいだけだ。「ゴールを決める」のではなく、「ゴールは決まっている」のだ。
ところが、近年、
・場合によっては品質を落としてでもスケジュールを優先してほしい
・場合によっては顧客に泣いてもらってもコストを優先したい
というような状況が出てきた。こうなると、「場合によっては」の部分を捌き、「ゴールを決める」必要が生じる。ところが、相変わらず、組織や上位管理者は決めない。従来通り、すべてをプロジェクトに任せている。確信犯であればまだ救いがあるが、時代の変化に気づいていない人も少なくない。
だからといって、この捌きを個別のプロジェクトで行うと、一つの部門で実施しているプロジェクトのゴールの設定方針がばらばらというひどい話になる。おそらく、それは上位管理者も許さないだろう。
◆それでも、プロジェクトの成功は、プロジェクトマネジャーに依存する
しかし、プロジェクトの成功がプロジェクトに依存することは変わらない。ジレンマである。このような状況で多くのプロジェクトマネジャーはどういう行動に出ているのだろうか?
箱にこもる。箱の中で自分たちで考え抜いて決めるというのであればまだしも、ITプロジェクトでは顧客を箱に引き込むプロジェクトマネジャーも少なくない。「顧客の要求」ということでゴールの正当性を主張する。これでは、ビジネスにはならない。顧客にとっても決してよい結果は招かない。
◆答えはフォロワーシップにある
何をすべきか?上位管理者にゴールを決めさせることだ。だからといって、組織上の立場があるので、指示するわけにはいかない。お願いするだけであれば、聞き流され、いつになるか分からない。影響を与えることが必要だ。
このような行動をフォロワーシップという。フォロワーとして上司に影響を与え、上司の正しい行動を引き出す行動だ。
最近、メンバーのフォロワーシップに言及するプロジェクトマネジャーがちらほらとみられるようになってきた。しかし、プロジェクトでフォロワーシップが必要なのはメンバーだけではない。戦略的なプロジェクトにおいては、むしろ、プロジェクトマネジャーにこそ、上位管理者に対するフォロワーシップが必要である。
つまり、プロジェクトマネジャーは、リーダーシップとフォロワーシップを合わせもつことが求められるようになってきた。
◆この連載について
この連載では、プロジェクトにおけるフォロワーシップをいろいろな角度から考えてみたい。今回のイントロでは、フォロワーシップを上司に対するものだとしている。これは混乱がないようにそのように説明しているだけで、本来はロールに対する概念であり、状況依存するものだ。たとえば、タスクを担当するメンバーが、プロジェクトマネジャーにステークホルダの調整という分担をしたとしよう。この場合、ロールとしては、プロジェクトマネジャーはフォロワーである。その場合、プロジェクトマネジャーはフォロワーシップを発揮することにより、メンバーを指導することになる。この構図はサーバントリーダーシップと呼ばれることもあるが、この連載では、上司部下の関係以外についても触れていきたい。
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