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◆見える化から見せる化へ
見える化はあたり前になりつつあるが、一方で、「見せる化」という言葉が注目されつつある。見える化というのは内向きの話だが、見せる化は外向きの話である。
見せる化の元祖はおそらく、寿司屋である。もう20年以上前になるが、米国から来日したビジネスパートナーを寿司屋に連れて行ったら、寿司そのものよりも、カウンターで客を前にして握ることに感動していた。確かに、珍しかった。最近では、飲食では、蕎麦屋とか、うどん屋とか、刀削麺の店でよく見かける。
◆ホンダクリオ明舞の車検の見せる化
サービスでいえば、車検をユーザの目の前でやるという取り組みをしている店がある。ホンダクリオ明舞では、2003年11月、神戸市西区に神戸西車検センターを開設し、
JAPAN車検を展開し始めた。このサービスを始めたはホンダクリオ明舞の石川辰二社長は、その趣旨について、「ドライバーから車検の内容や価格がわかりにくいという声を聞き、どうすれば安心・納得して受けてもらえるかを考えた」と語っている。そして、好評を得るなり、明石車検センターを立ち上げた。
明石車検センターは白を基調とした店内に音楽が流れ、従業員が迎えてくれる。1階受付フロアからは、大きなガラス越しに車検ラインがよく見える。床はタイル張りで、オイル汚れも、車検のための工具も見あたらない。
◆単なるショーではない
その秘密が独自開発した車体を持ち上げる車検リフト。その中に工具が納められ、車体のまわりで工具類を移動させずに済み、無駄な動きを省いて、28分間という短時間での作業終了を可能にした。ここに一つポイントがある。見せるだけではない。ユーサーにとって早く車検が終わる。車検センター側からすると車検の生産性を上げるこ
とができる。双方にメリットがあるWin-Winの関係になっている。
さらに、明石車検センターでは、お客さんと一緒になって車検をすることを大切にしている。顧客が車検を見るために座る椅子の前には、エンジンオイルやブレーキオイル、ワイパーのラバーなど、それぞれ新品と交換時期を迎えた使用品が並べられる。交換の必要性が一目瞭然になる。さらには車検ラインにある6台のカメラで作業の進
み具合や内容を撮影し、モニターに映し出す。これは帰りにDVDに収録して貰える。ここまで徹底している。さらに凄いのは、車検担当者がブレザー姿であることだ。作業服ではない。ここに見せる化の本質的があるように思う。
◆見せる化がモチベーション3.0に
このようにカッコいい姿を顧客に見せることによりサービスマンのモチベーションは圧倒的に上がり、スムーズに、早く、丁寧に車検作業をできるように技術を磨こうとするそうだ。まさに、モチベーション3.0の世界である。もちろん、透明性は高く、顧客満足に結びついている。
おそらく、顧客に見せると集中できないので安全性や効率が下がるのではないか、そんな格好をさせて作業者の安全性は確保できるのかといった批判はあるものと思われる。しかし、現実には車検時間は作業環境の工夫もあり向上し、安全も犠牲にされていない。むしろ、モチベーションの増加で安全性を確保できる方向に向かっているのではないか。
ただ、顧客との接触を嫌がるサービスマンはいるらしい。そこで、明石車検センターでは3人のグループで車検を担当する。その中の2人は顧客の前で問題なく、作業で
きる人にする。すると、残りの一人は二人の様子を見ていてチャレンジしてみようと思うようになるらしい。
◆アジャイル開発へのインプリケーション
さて、話は変わる。ITの分野でも見せる化を取り入れようとしている開発手法がある。アジャイルである。アジャイル開発がやろうとしていることは、この車検センターとほとんど同じだと考えて良い。しかし、成熟度は全く違う。自分たちのための見える化をし、顧客がそれを見てくれればよいという発想だ。アジャイルで行われるべきは、見える化ではなく、見せる化であり、それにより、自らの作業を効率化し、統制することである。
同時にモチベーションを上げ、生産性の向上を図ることである。
車検の見せる化に大きなヒントがあるのではないだろうか。特に、組み込みソフトウェアにおいては、見える化より、見せる化の方が重要なのではないだろうか。
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