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◆求められる概念的思考
この10年くらい、というかある意味では高度成長期からずっと言われているのが「考えよ」ということだ。ものを考えるとは、「概念的に」考えるということである。
研修にしろ、OJTにしろ、何か概念的な説明するとかならず「例えばどういうことですか」という質問をする人がいる。質問の理由を聞くと、「曖昧」であるという人がいる。あるいは、具体的なイメージがないと腑に落ちないという人がいる。
ここが本質だと思う。多くの人は概念的な話を、曖昧だと感じてしまうのだ。この議論に日本語という言語の曖昧さの問題を持ち出す人もいるが、今回はこの問題は除外
する。
◆2つのルール
プロジェクトに関するルールを考えて見よう。変更管理のルールに、
コストの予実の差異が10%を越えた場合には、PMOに相談し、影響分析を行い、最終予測が15%を越える場合にはプロジェクトスポンサーに報告し、指示を仰ぐこと(*1)
といった類のルールを決めている組織が多い。このルールは
コストが是正不可能な状況になった場合には、プロジェクト終了時点でのコストを予測し、経営的な影響があると判断されれば、しかるべき人と相談し、対応を決めること(*2)
というルールである。しかし、こんなルールを決めている組織はほどんと皆無だろう。(*1)のようなルールを定めている組織の中には「自律」をうたっている組織もあるが、ここまで決めてしまうと自律の意味が変わってくる。ルールを事細かく決めておいて、ルールを守ることを自律といっていることになる。自律とは、自分自身で立てた規範に従って行動することであるので、「自分の立てた規範=組織の決めたルールを守る」というレトリックを使えば間違いとはいえないが、、、
◆具体的なルールの限界と運用
このようなルールの決め方を批判することがこの記事の目的ではない。
こんな状況を考えて見て欲しい。直近の進捗でコストの予実差が11%になった。ルールどおりにPMOに相談しているうちに次の進捗報告の日を迎えた。すると、今度は差異は5%まで減少していた。実質的なコストオーバーというより、コスト計上の方法の問題だった。
そこで、現行のルールに
・プロジェクトコストの計上は支払いの実行のタイミングとする
・予実の差異10%を越えたところでPMOへ事実報告、3週間続けて越えた場合に
は影響分析の2ステップに分ける
の2項目を付け加えた。それから、数週間後、突然、コストオーバーが15%を越えた。ある調達先への支払いが口座取引で、社内部門へのコスト配賦が四半期ごとであったため、隠れたコストオーバーが露出した格好になった。今度は「調達先が口座取引の場合には、、、」というルールを追加した。
ルールを決めて実現したいことはまったく変わっていない。経営的影響のあるプロジェクトのコストオーバーに対してできるだけ早く手を打つことである。しかし、ルールはどんどん複雑になっていく。
◆概念的思考ができないという問題
概念的な思考ができないことによって、このようにどんどんと「ケース」が追加されていき、ルールはどんどん複雑になっていく。コンサルをやっていてつくづく思うのは、策定されて5年以上経過しているルールやプロセスは一から作り直さないとだめだということだ。ルールに尾びれ背びれが付いているのは仕方ないとしても、その理由をすべて把握している人すらいないケースが多い。
このようにしてルールは複雑になっていく。
問題は具体的なルールを定めることそのものではない。具体的なルールは必要である。具体的なルールの定め方に問題がある。日本の組織では具体的なルールをボトムアップで定めている。つまり、過去の経験から必要なルールを決めておき、ルールを運用する中で新しいルールが必要になったら追加するという方法を取ることが多い。法律の発想だ。
これに対して、欧米は概念から入る。ルールを概念的に決め、そこから具体的なルールに落とす。すると、経験のない状況が起こってもある程度対応できるルールができ
る。従って、このルールは何が目的(母屋)なのだというつぎはぎだらけのルールにはならない。
◆商品開発でもまったく同じ
ルールを中心に話を進めてきたが、商品開発を見ても同じ状況がある。ガラパゴスと言われる商品がよいか悪いかは別にして、それが一体何なのかが判らないという共通の特徴がある。これは概念を定義せずに、顧客の声だけをたよりに増改築をした結果である。一つ典型例を挙げれば、携帯電話、いわゆる、「ガラケー」だ。
冗談ではなく、知人の米国人から、携帯電話に「この機械は何だ」と質問されたことがある。電話以外に、デジカメ、TV、ICカード、インターネット端末、辞書が付いている。これはおおよそ、今の情報家電一式である。便利ではあるが、概念はない。まるで、千と千尋の神隠しに出てくる「カオナシ」である。
プロジェクトや商品をシンプルにするには、顔が必要なことはいうまでもない。
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