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(前半)持論について考える(前)
◆持論の使い方と効用(3)~成長の糧にする
三つ目は、持論を糧にしてプロジェクトマネジャーとして成長していくことだ。持論を持つことによって、持論を適用してみて、その結果に基づいて、自分のやり方を振り返ることができる。もちろん、持論がなくても振り返ることはできるが、持論により振り返りの焦点が絞られる。重要なことは、多くのプロジェクトマネジャーの持論というのは、プロジェクトの結果に大きな影響を持つポイントを中心にしていることだ。たとえば、プロジェクトマネジャーにプロジェクトを成功させる「コツ」はなんですか?と聞いたら、どうでもよいことなど出てこないだろう。その人が、自分なりにここさえ押さえておけば大丈夫というポイントが出てくる。
つまり、持論を持ち、持論を中心に振り返りを行うことより、プロジェクトを成功させる方法を合理的に習得することができる。言い換えると、戦略的に成長できるのだ。この振り返りは内省と呼ばれるが、内省を誘発し、かつ、内省の結果を整理する役割を果たすのが持論である。そして、持論の成長とともに、プロジェクトマネジャーとして成長していくといってもよい。
ここで注意しておいてほしいのは、内省し、結果を持論として整理することは、持論を変えることに他ならない。
持論という言葉から、エスタブリッシュされた人の方法論だけが持論であるという誤解を持つ人が多い。たとえば、ITスキル標準のレベル7というのはそういう雰囲気を醸し出している。もちろん、それも持論には違いないが、そのような持論は、後に述べる理論になっている可能性が高い。ここでいう持論は、一度、プロジェクトマネジャーをやった人が、振り返って、次はこのようにしようと考えたとすれば、それを形式化したものも立派な持論である。
むしろ、持論を変えないことは(1)や(2)の観点からも問題があると考えるべきである。たとえば、チームをまとめる持論などはその典型で、「飲みに行って腹を割って話せば、チームをまとめることができる」という持論はもはや通用しない。このような極端な例は別にしても、持論とはダイナミックなものであり、継続的に改善していくことに持論の価値がある。
持論は、共有して他人を導くことが目的ではなく、自分自身の行動を導き、そして、学習することが目的なのだ。その目的において、自分の持論が他者の持論に影響を与えたり、自分が他者の持論に影響を受けるといった相互学習が起こることは当然あるし、むしろ、それは推進すべきことである。
簡単にいえば、持論は持論として確立されるものではなく、どんどん変えていくものだ。自分の過去の考えを捨てて、新しい考えを取り入れるというアンラーニングをコントロールできることにこそ、持論の価値があると考えることもできる。
持論を作り、使っていく場合には、この点をよく認識しておきたい。
◆理論に学ぶ
最後に、持論と理論の関係について触れておきたい。理論とは、ある程度の普遍性をもって、正しいとされる方法論である。プロジェクトマネジメントの場合であれば、PMコミュニティで調査・研究されて得られた知見がそうであるが、もう少し、緩く考えるとPMBOK(R)に代表される業界標準が一つの理論と考えてよいだろう。業界標準は、多くの企業でうまく行っている方法論、あるいは特定のプロジェクトマネジャーが繰り返し成功している方法論を概念化し、体系化したものもだからだ。また、ベストプラクティスとして有効性が確認されているものも理論といってもよいだろう。
ここで問題は、プロジェクトマネジャーは、持論をどのように位置づければよいかである。自分の企業、あるいは、自分の事業部といったローカルな範囲に限定すれば、理論よりは持論の方が適切である可能性が高い。実際、PMBOKなどを導入するときは、必ずといってよいくらいテーラリングすることはその証拠だ。
そう考えると、理論がどうであろうと、持論と経験にこだわればよいのだろうか?
ここで考えたいのは、個人で経験できるプロジェクトの数は知れているし、同じような属性のプロジェクトを任されることが多いという現実である。また、ステークホルダやメンバーも特性が偏っていることが多い。つまり、経験から持論を構築している限り、経験の範囲では素晴らしい持論ができる可能性があるが、その持論が通用する範囲は限定的である。もちろん、持論が普遍的である必要は全くないのだが、程度の問題である。たとえば、同じ内容の仕事でも、ステークホルダが変わると、大失敗してしまうようなケースは程度の問題として避けるべきである。
そう考えると、理論と持論はある程度、照らし合わせて、自分の持論の特徴を知っておくと同時に、よいところは取り入れてみることが重要である。特に、自社の標準が理論に基づいて構築されているような場合には、整合性の問題も生じるので、このような持論の位置づけは一段と重要になる。経験は持続的イノベーションをもたらすが、理論を取り入れることは破壊的イノベーションを持たす可能性がある。
この事情は組織の持論、つまり、標準についても同じだ。だから、企業は業界標準という理論を取り入れ、新しい事業の中で行うプロジェクトにも対応できるようにしようとする。言い換えると、組織は個人の経験から学ぶと当時に、世の中の経験から学び、成長をしていくのだ。
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