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◆「アクションを重視するプロジェクトマネジメント」
PMstyleでは、PMBOKに代表される現場業務のオペレーションマネジメントをPM1.0とし、経営戦略に基づき、組織の戦略オペレーションのマネジメントをPM2.0と定義している。
PMstyleの第8期のプログラムで、カテゴリーに「PM3.0」というカテゴリーを加えた。意味するところは、「アクションを重視するプロジェクトマネジメント」である。
PMstyleでは、昨年度まで、「計画を重視しない」という言葉を使っていた。カテゴリー化するにあたって、この言葉は誤解を招くなと思い、IPAがアジャイルの契約形態をまとめる際に使っている「非ウォーターフォール型」使おうかとも思ったが、ウォーターフォールという言葉は、日本語ではソフトウエアプロセスを連想させるので、「アクションを重視する」にしたという経緯がある。
プロジェクトが戦略実行の手段であるという認識は、かなり定着してきたように思うが、ここで戦略と言っているものは何かというのはなんだろうか?
◆アンゾフの戦略計画
戦略という言葉を使うときには、イゴール・アンゾフが1965年に「企業戦略論」で示した、目的達成の計画(手段)が戦略であるという意味が一般的である。
イゴール・アンゾフは戦略経営論の創始者であり、戦略計画立案それ自体がマネジメント活動の一つとして成立するという考え方を世に広め、「企業戦略の父」とも呼ばれている。アンゾフ以前には、経営企画は、せいぜい2~3年先の予測をした予算制度に過ぎなかった。アンゾフは戦略立案においては、組織が将来直面する事業環境的課題を系統だてて予測し、これらの課題に対応するための適切な戦略計画が必要だと考え、「企業戦略論」でその体系的な手法を示した。
方法論に興味がある人は経営学の教科書をみれば必ず説明があるのでそちらを参考にしてもらうとして、アンゾフのフレームワークは、戦略計画を立案し、その計画に基づいて戦略を実行していくというものだ。いわゆるトップダウンの戦略観であり、現在でももっとも主流となっている戦略観である。
◆PM2.0
トップダウンの戦略観に基づく戦略の実行は、戦略をプログラムやプロジェクトに落とし込み、ポートフォリオで全体管理をしながら、戦略実行への貢献が高いプログラムやプロジェクトを優先的に実行していくというものである。
PMIが標準化しているプロジェクトマネジメント(PMBOK)、プログラムマネジメント、ポートフォリオマネジメントというマネジメント体系は、この戦略観を前提に構成されている。PMstyleがPM2.0と呼んでいるのもこの対応のプロジェクトマネジメント(体系)である。PM2.0については、
「プロジェクトマネジメントの基本」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4534048483/opc-22/ref=nosim
にまとめているので、興味があれば参考にしてほしい。
注意しておいてほしいのは、PM2.0で業務オペレーションにアジャイルプロジェクトマネジメントのような非計画型の手法が入ることはあることだ。戦略実行を行うということは、ビジネスモデル、技術、業務のいずれかのレベルで未経験課題と取り組むということであり、課題解決をローリングウェブも含めて計画的に行うことは難しいケースが多い。そこで、業務のマネジメントはアジャイル的に行い、柔軟性を持たせるという選択をとるケースが多い。
◆ミンツバーグの創発戦略
さて、アンゾフの戦略観の前提は、「経営環境は変化しない」という前提に立っている。もちろん、誰もが環境は変化するものだと理解しているのだが、にも関わらず、戦略計画に精を出している。また、環境変化をも、計画的に捉えようとして、シナリオプラニングのような不確実性を含めた戦略計画を作ることもある。この背景には、戦略を変えることは、リーダーシップやマネジメント能力が欠如しているとみなされるからだ。
このような現実に対して、「戦略は計画されるだけではない」という戦略観が、ヘンリー・ミンツバーグが示した戦略観である。ミンツバーグは、戦略と言うものは、日常業務の中で知らず知らずのうちに生まれて来たり、或いは何らかの意図があったにしても次第に形成されて行くことが多いとし、「創発戦略」と呼んでいる。言い換えると、ミドルマネジメントが日常業務の中で適応し、新しいチャンスを取り込んでいくパターンが戦略であり、意図せざる行動と学習の過程から生まれるパターン形成が戦略構築である。
ミンツバーグは「戦略はクラフト的に創作されるというイメージこそ、実効性の高い戦略が生まれてくるプロセスを言い表している」といっている。もう少し、正確にいえば、形成してゆくプロセスと実行するプロセスが学習を通じて融合し、その結果、独創的な戦略へと徐々に発展して行くのだと言うのである。
注意しておいてほしいのはミンツバーグは戦略計画を否定しているわけではないことだ。問題にしているのは、現場で戦略が構築される場合があるにも関わらず、トップとのコミュニケーションがなく、トップの戦略と現場の活動が整合しないことだ。戦略がどこで生まれるにしろ、現場とトップがコラボレーションすることがよい戦略ができる条件である。
つまり、ミンツバーグの戦略観は、戦略策定には創発と計画のミドルアップ、あるいはミドル・トップダウンの戦略観である。この場合、戦略とプロジェクト(プログラム)の位置づけは逆であり、プロジェクトの中で、新しいビジネスモデルや技術を取り込んでいき、結果としてそれが戦略実行になっているということになる。そして、クラフトの質の高さが戦略の質の高さを決め、企業に戦略的な成功をもたらす。
◆PM3.0
さて、ミンツバーグの戦略実行モデルでは、プロジェクトはどのように管理されるべきだろうか?PMBOKのような、計画を精緻に行う方法ではないだろう。ここで、キーワードになるのがクラフトである。クラフトというのは、工芸のことで、アートと言い換えてもよい。つまり、いろいろな試行錯誤をしていくうちに、よい成果を得るという方法である。これに近いのは、アジャイルプロジェクトマネジメントである。
アジャイル以外にもいろいろな方法があると思われる。もっともポピュラーなプロジェクト遂行の形である、人を巻き込みながら、みんなで考え、進んでいくという方法はすべて、ミンツバーグのいう戦略実行のプロジェクトだといってもよいだろう。PMstyleが「アクションを重視するプロジェクトマネジメント」という表現をしているのは、ミンツバーグの戦略観に基づき、戦略実行を行うプロジェクトをマネジメントする方法を意味してしており、これをPM3.0と呼んでいる。
◆PM2.0、PM3.0の具体的な形
イノベーションを普通に行わなくてはならない時代のプロジェクトマネジメントとしては、PM2.0、あるいは、PM3.0のいずれかが求められる。この2つの違いは経営スタイルの違いであり、マネジメント手法の優劣ではない。
PM2.0の具体的な形は、
プログラムマネジメント+アジャイルプロジェクトマネジメント
という形である。今、米国ではもっともスタンダードになっている形だ。
PM3.0の形としては
アジャイルビジネスケース+アジャイルプロジェクトマネジメント
というのが一つの形になるものと思われる。
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