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◆型にこだわる日本人
最近、「型」を取り扱った本を2冊ほど読んだ。
武光 誠「「型」と日本人」、PHP研究所(2008)
日本ナレッジ・マネジメント学会「「型」と「場」のマネジメント」、かんき出版(2008)
いずれも力作である。日本人は型にこだわる人が多い。なぜだろうか?少し、この問題を考えてみたい。
背景にあるのは型や、伝統芸能の世界に古くからある型を極めることの重視であるだと思われる。守破離ではないが、型を破るというのは、型を極めたところにあると考える傾向がある。
さらに考えてみると、武士道をはじめとして、アマチュアリズムへの崇拝のようなものがあるような気質があるように思えて仕方ない。プロフェッショナルではなく、達人であることを重んじる。
◆アマチュアとプロフェッショナル
プロフェッショナルとは何かというのも深遠な議論であるが、一言で言ってしまうと、
プロフェショナルは常に勝とうとするけど、アマチュアは自己を高めようとする
であるといえる。プロフェッショナルは、力不足だったという言い訳はしない。そんなことは最初から分かっていることだ。それを覚悟で勝負に臨んでいるわけだ。その中で如何に勝つかという戦略こそがプロフェッショナルの真髄である。型という点でいえば、プロフェッショナルとは型を表に出さない人だといえる(もちろん、型はあると思う)。
アマチュアは「力不足でした、出直してきます」が通用する。そして、実際に力をつけるために研鑽する。今年はゴルフ界で石川遼選手がセンセーショナルなデビューを飾った。彼のインタビューを聞いていると興味深い。アマチュア時代は力不足、勉強不足を盛んに言っていたが、プロに転向したのちはピタリとやめた。今の自分の力をいかに使うか、つまり、戦略を語るようになった。これがプロだと思う。
もちろん、今でも力不足を感じていないわけではないと思う。プロにとってスキルアップは当たり前であり、殊更、公言すべきものではないというだけの話だろう。
もうひとつ加えれば、プロフェッショナルが常に勝てるかどうかは今度は能力である。
この議論のキーワードは目標や目的を達成するための能力としてのスキル(実戦能力)である。能力をどれだけスキル化できるか。プロフェッショナルは能力よりもスキルで勝負する人だといえるだろう。
◆プロジェクトマネジメントにおけるアマチュアの増加
さて、話を変える。どうもここ数年、アマチュアのプロジェクトマネジャーが増えてきたように思う。これはPMBOKなどのプロジェクトマネジメント手法が不適切な形で導入されていることの弊害ではないかと思う。
型が重要なもうひとつの理由は、みんなで知識を共有するだけではなく、それを高めていくことができることだ。組織学習であり、組織学習には型があった方がやりやすい。ビジネスの世界ではフレームワークといっているが、ここに日本流の求道的なものを求めるのは今後の流れなのかもしれない。
その意味で、プロジェクトマネジメントで型を導入して、洗練させていくこと自体はすばらしいことだと思う。しかし、われわれはプロジェクトマネジメントを極めたいわけではなく、プロジェクトを成功させたいだけだ。プロジェクトという勝負に勝ちたいだけだ。「あと3年待ってください。どんなプロジェクトでも成功するだけのスキルや組織能力を身につけます。それまでは失敗もあると思うけど我慢してください」という言い訳など通用しない。今の能力で如何にプロジェクトを成功するかということが「唯一の」問題なのだ。
プロジェクトマネジメントの組織学習の機運が高まってきている中で、この点だけは改めて確認しておく必要があるのではなかろうか。
戦略を考えることなく、能力向上に邁進することはアマチュアリズムであり、ビジネスとしての大きな発展は望めないだろう。プロジェクトマネジメントの継続的な能力向上の前に、戦略性を鍛えるべきである。
◆大いなるアマチュア文化の可能性
ただし、上にも述べたように日本の文化は大いなるアマチュア文化である。ブログの数が世界一というニュースを聞いたときになるほどなと思ったことがある。
今のプロフェショナル論ステレオタイプはおそらくGEの、ジャック・ウェルチ原則である。たとえば、ロバート・スレーターのまとめた
ロバート・スレーター「ウェルチの戦略ノート」、日経BP社(2000)
を読んでみるとよく分かる(この本の原書はGE Way feildbookでウェイ本の走りだ)。いわゆる、ウェルチ原則といわれるものだ。
これに対して、最近、アンチウェルチ原則というのが出てきている。一昔前なら、アマチュアの考え方だと一蹴されていたような考え方が、プロフェショナルであるためにはアマチュアである必要があるというパラドキシーな発想で認められるようになってきた。このあたりに興味がある人は、勢古さんの
勢古 浩爾「アマチュア論。 」、ミシマ社(2007)
を読んでみるとよいかもしれない。
【2008.12/10】オリジナルの記事中に本意が伝わらない不適切な記述がありましたので記事を修正し、関連コメントを削除しました。ご指摘いただいた方、ありがとうございました。
投稿情報: 家主 | 2008-12-10 12:44