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◆ルーヴル美術館照明改修プロジェクト
今年から、PMI(R)がアジャイルPMPの認定制度の試行を開始した。米国のPMIでは、この4~5年、アジャイルに関連する活動が年々盛んになっている感があるが、今年はアジャイル元年だといってもよいだろう。ということで、今年最後の戦略ノートはアジャイルの話題。
「はやぶさ」ほど注目されることはないが、ある意味ではやぶさより示唆に富み、今年、アジャイル元年にふさわしいプロジェクトが大きな成果を上げた。
そのプロジェクトは東芝が実施した「ルーヴル美術館照明改修プロジェクト」である。ルーヴル美術館といえば美しいライトアップでも有名だが、このプロジェクトは、ルーヴル美術館のピラミッド及びナポレオン広場、奥のクールカレの外観ライトアップに用いる器具を、LED照明にすべて改修するものだ。目的はいうまでもなく、環境保全である。
東芝は日本で初めて、白熱電球の製造に成功した企業であるにも関わらず、昨年、いち早く、白熱電球の事業から撤退し、LED照明に特化した。ルーヴル美術館のプロジェクトのパートナー選定においては、この点が評価されたらしい。
◆やってみなくてはわからない世界
照明は計算して、仕様を明確にすることが難しい。美術館の関係者は、やってみないと分からないと胸を張って主張する。イメージはあるが、それがどのように具現化されるかはやってみないと分からない。まさにイメージである。
ルーヴル美術館の館長であるアンリ・ロワレット氏はこのプロジェクトについて以下のように語っている。
建築上のすべてのディテールを強調するフラットなタイプの照明を提供したり、日中に見ているものを真似たりするのではなく、ミステリアスで特別な夜間照明を生み出し、宮殿の異なるビジョンを提供することだ。東芝、私たち自身、そして歴史的記念物について責任を持つ建築士たちの間に対話を確立し、私たちはとても素晴らしいことを達成したと思う。
(東芝「ルーヴル美術館照明改修プロジェクト」紹介ホームページより)http://www.toshiba.co.jp/lighting/jp/project/louvre.htm
なんと素晴らしいことだろうか。美術館、建築士、東芝が対話により、それぞれの役割を持ち、対話を確立し、ゴールを探りながらそこに到達していく。
LED照明機器の提供と、工事費用の支援というパートナーシップ契約らしいが、いくら文化事業とはいえ、社内では予算は青天井ということではないだろう。予算の中で、対話を確立して、ゴールにたどり着いたことは賞賛に値する。
これこそ、アジャイルプロジェクトマネジメントの極みである。
◆ルーヴル美術館に学ぶ
対話はアジャイルのキーワードの一つである。市場との対話、顧客との対話。しかし、実際には対話はあまり行われていない。コミュニケーションの中で対話が違うとすれば、ビジョンを共有し、そこに向かってドライブしていくのが対話の特徴である。ルーヴル美術館のプロジェクトはまさにそういうプロジェクトだ。参加する人たちの頭の中にあるビジョンがモノ(照明)として実現され、すべての参加者のイメージと合うまで、徹底的にイテレーションが行われる。
重要なことは、このイメージは顧客(美術館)のイメージではないということだ。建築士はもちろん、ベンダーもイメージを持っている。そして、それをモノとしてすりあわされていく。
そこに、初めて、文化と技術が統合された世界が生まれる。文化だけでもないし、もちろん、技術だけでもない。統合されていることがアジャイルのアジャイルたるゆえんである。顧客が要求を提示し、ベンダーがそれを実現するという方法ではできない世界である。
◆アジャイルは顧客理解から
アジャイルプロジェクトで難しいのは、プロジェクトが顧客の領域のイメージを持つことである。アジャイルが単にウォーターフォールプロセスの置き換えになっているのはこの点に問題がある。対話がないし、それ以前に、プロジェクト側に顧客のビジネスに対する関心がないケースが多い。
パートナーシップ契約と、受託業務契約は違うと主張したい人もいると思うが、それは、商流の問題であり、スタンスを変えるものではない。モノづくり、ソフト作りの世界で、顧客満足はよく語られるが、「顧客理解」はあまり語られない。顧客を理解することは、顧客の要求を理解することだけではない。どのような契約であろうと、顧客のビジネスや文化、価値観を理解し、プロジェクトのビジョンを共有した上で、顧客と同等な立場でビジョンを具現化していくことが顧客理解である。
プロジェクトを本当の意味でアジャイルにするには、顧客理解が不可欠であることを、ルーヴル美術館のプロジェクトは教えてくれた。上に紹介したホームページは実に重要なメッセージが多くある。
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