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◆現場レベルの進捗、経営レベルの進捗
通常のプロジェクトマネジメントのやり方では、進捗は成果物で測る。もっと正確にいえば、スケジュールはスコープ(成果物)をベースにして設定されるので、進捗もそのようになる。現場のレベルでは妥当な考え方である。
ところが、経営・事業レベルで考えるとこれではまずいことがある。極端な例を挙げると、たとえば商品は完成しても、当初見込んだほど売れそうにないというケースがある。このようなケースは、成果物の進捗は100%であるが、プロジェクトとしての進捗は到底100%には及ばないと考えざるを得ない。SIプロジェクトのようにプロダクトスコープを決定するのが顧客であり、契約上の取り決めの場合にはあまりこういう問題は起こらないかもしれないが、現実にはベンダーがリリースを決めた成果物が、顧客側から要求と違うと指摘されるケースは少なくない。
このような問題を考えてみると、成果物だけでプロジェクトの進捗を計測することは、必ずしも合理的ではなく、別の指標が必要である。それが、「価値」だ。
価値は現場レベルの進捗(成果物)と経営レベルの進捗を統合的に扱う指標になる。
◆アーンドバリューという手法
プロジェクトマネジメントの中で、価値に注目して進捗を計測しようとしているのが、アーンドバリューという手法である。この手法では、成果物の価値を金銭価値に換算することにより、コスト予定に対してどれだけの価値が実現できたかを計測し、それを進捗とみなしている。たとえば、製品を組み立てるのに必要な部品を3種類作る。部品はA→B→Cの順番に作っていき、それぞれの価値と、機能数、予想所要日数は
部品A(12万円、2機能、3日)
部品B(20万円、2機能、4日)
部品C(15万円、3機能、5日)
だとする(同一部品の機能の価値は均等と仮定)。するとコストの計画は
3日後 12万円
6日後 27万円
9日後 38万円
11日後(完成) 47万円
となる。ここで、部品Bの開発が終わる7日後にコストは予定通り消化しているにも関わらず、部品Bは1機能しかできていなかったとすれば、創出された価値=22万円、コスト30万円で、進捗は73%ということになる。
重要なことは、この73%という数字は経営でも73%かということだ。
◆時間対価、付加価値、顧客価値
ポイントは、価値がどのような方法で割り振られているかだ。
もっとも簡単な方法は、工数ベースだ。部品Aは人件費1日4万円の人が3日でできるので、12万円の価値があると考える。アーンドバリューの場合、よく使われる方法だが、工数ベースでこれだと現場の数字にしかならない。
これを付加価値、あるいは、顧客価値に変換する必要がある。付加価値に変える場合には、たとえば、工数ベースの割合をそのまま、計画上の想定収益に適用して、その数字を価値にするような方法が考えられる。一応、これで現場の進捗と経営の進捗が統合された数字になる。
顧客価値として考えたい場合には、もう少し、話は複雑になる。想定収益の割り振りに工数ベースが使えない。たとえば、開発する商品の市場調査の際のユーザの欲しい機能の上位から、得票割合に応じて割り振っていくといった方法で価値を設定する。これが正しく顧客価値を反映しているかといえば、微妙であるが、ある程度、近似はしている。
◆顧客価値を測る意味
精度よりも重要なことは、価値の進捗を計測した次に来る、機能の見直しに対して、有効は方法になることだ。たとえば、価値が90%を超えると、残りの機能はスコープから外すといったマネジメントが考えられる。
ユーザの重視する機能から開発していき、たとえば、一定の価値になったところで、スコープを変更し、競合との見合いで前倒しに発売する、原価を下げるといったことが考えられる。
さらに、この連載のテーマである「デザイン思考」との関係においては、進捗を計測する指標としての価値だけではなく、「デザイン」の評価をする指標として使うことができる。アーンドバリューの手法を応用しようとすると、評価のための軸として「時間」を使いながら、価値の計測をする妥当性を担保する工夫が必要であるが、いま、あるフレームワークを使ってマネジメントするには、よい方法ではないかと思われる。
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